転機はいつも側に

 私も30代を折り返し、四捨五入して『アラフォー』のカテゴリーに入るようになってきた。今の仕事は12年目を迎えているが、社会人になってから2社目の会社だ。

 そう、私の転機は11年前に訪れたのだった。

 まず始まりは学生時代に遡る。私は大学在学中にろくに就職活動をせず1つ目の会社に入社した。正確には就職活動ができなかったと言った方が正しいかもしれない。ただ、これは別に病気とかそういった不可抗力が絡む話ではなく、ただ単に、出遅れただけのお粗末な話なのだが。。就職活動は大学4年になってからと思っていた私が、いざ活動開始と思った時には『時既に遅し』、自分の興味のある会社は悉く採用募集終了となっていたのである。そのくせ、俗にいう就職浪人はしたくない考えだった。もちろん理由あっての浪人は問題ないが、何も理由の無い自分には浪人は負い目があったのだと思う。

 そんなこともあり、1社目の会社は、出遅れた就職活動ながら採用通知を一番最初にくれた小売業(スーパー)の会社に入社した。

 入社前の研修から『大声を出す練習』や『魚、肉の切り方』など、小売業ならではの訓練を受けた。大学は経済学部を専攻していたので、普通に考えれば「なぜこの会社に入ったのか?」とここで思い直すこともあるかもしれない(同機にはこのタイミングで辞めた者もいた)が、体育会系で育ってきたこともあり、意外と楽しめたことで順調に1社目の社会人生活がスタートした。

 それからも、思い返せば小売業ならではの大変なことはちょこちょこあったと思うが、若かさなのか性格なのか、何も不満を持たずに過ごし、何だかんだで2年が経とうとしていた。

 この頃、辞める同期が増えてきて「何々店の誰々が辞めるらしい」という噂を耳にするようになった。もちろん離職率も多いと聞いていた小売業界、そのくらいの噂では自分の心境には大きな変化をもたらすことはなかった。同じ店舗で寮の同部屋で暮らしていたK君が辞めると言い出すまでは。

 ある日のこと、仕事から2LDKのアパートへ帰ると、ルームシェアしていたKから「ちょっと大事な話がある」と切り出された。まさか「同性愛者とか言うなよ」とか冗談を言ってみたものの、あまり表情が崩れなかった。何事かとこちらも構えるとKは、「俺来月で仕事を辞める。辞めて前からやりたかったSEになる。」と言った。私はもちろん引き止めることもせず、応援の言葉でKを後押しした。それはKの

発言に絶対的な意思を感じたからそうするしかなかったし、そうすべきだと感じたからだ。その後、部屋で一人ビールを飲みながら考えた。「俺は何をやりたいんだろう?」

 Kのことがあって以来、他店にいる同僚の話も今までに増して自分の心を揺り動かすようになった。「俺はこのままでいいのか?」

 そうしてKが辞めて3か月が経とうとした頃に私は店長に「仕事を辞めます」と退職届を提出した。

 Kから告白されたことが大きな引き金となり、『自分を見つめ直す』ことでこの結論に至った。諸先輩方からは、理由は聞かれたものの、二言目には激励のお言葉を頂戴した。それも大きな後押しとなった。きっとあの時Kと同部屋にならずに、なっていてもKが辞めずにいたら、少なくともこのタイミングでの決断はなかったと言える。別に小売業が悪いということはない。ただ自分が本当にしたいことがそれではなかったこと。たぶん他の職業についていてもそうだったのかもしれない。一つ反省という点では、就職活動をする前に、自分を見つめ直す時間が足りなかった。そういう点では、中途半端な自分に内定をくれた会社には申し訳ないと思った。

 その後私は、久々に大学時代の恩師を訪れ、相談したり、転職会社の方にお世話になり、縁あって今の会社に転職することができた。

 

 転機はいつどのようにして訪れるのか、それは誰にも、自分自身でもわからない。ただ言えることは、そのきっかけは大きかったり小さかったり様々ではあるものの、毎日身の回りで起きていて、それをその時の自分が「転機」と捉えること、そして一歩を踏み出す為の背中を押してくれる「誰か(何か)」がいる(ある)ことが、同時に揃って初めて訪れるのだと思う。